季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「……と、いうわけなんです。」
私はバーのカウンター席に座り、モスコミュールを飲みながら、佐倉代行サービスで起こった出来事をマスターに話していた。
結局、私が偽壮介役をしてくれる人を依頼した日には、あの順平しかスケジュールが空いていなかった。
どこぞの裕福な家庭の息子がゴージャスな結婚披露宴を予定しているのだが、良家のお嬢様である花嫁の家柄と釣り合うような友人がほとんどいないとかで、新郎の友人として大勢の代行サービス、つまりサクラを依頼したらしい。
その日は他にも何件か依頼があって、特に男性のサクラが、ほとんど出払ってしまうのだそうだ。
依頼するのを辞めようかとも思ったけれど、挙式を予定していた日まで、もう時間がない。
他にもやらなきゃならない事があるし、順平が失礼な事を言ったお詫びに格安料金にしておくと言われたので、不本意ではあるけれど仕方なく依頼する事にした。
たった1日、ほんの数時間の辛抱だ。
その日をなんとかうまくやり過ごせば、あとはどうにでもなる。
マスターには、若いサクラの男に失礼な事を言われたとは話したけれど、昔付き合っていた事は話さなかった。
二人が会う事なんてないのだから、余計な事を話す必要はない。
そう思っていた。