季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「何言ってんだ、俺があんなオッサンに負けるわけないじゃん。で?オマエはどうよ?旦那にバレてねぇだろうな?」

……電話の相手、人妻だ。

時々そんな気はしてたんだけど…もしかして、私以外にも付き合ってる人がいるのかな?

「うまく行って良かったじゃん。…ん?俺はこれからどうしてやろうかって考えてるとこ。…ああ、とりあえず手元に置いてるしな。時間はいくらでもある。」

なんの話なのか、さっぱりわからない。

「ああ、大事に育てろよ。…ハハッ、間違いなく美人になるよ、俺の子なんだから。」

………えっ?俺の子?

順平…今、確かに…俺の子って言ったよね?

「あんま俺に似たら旦那にバレるか、そりゃまずいな。でも大丈夫だろ、単純で鈍そうな男だもんな。あんなののどこがいいわけ?……ハイハイ、悪かったって。せいぜい大事にしてもらえよ。…大丈夫だ、朱里はなんにも気付いてない。」


私は気付いてないって…なんの事…?


頭の中を整理したいのに、高熱のせいで朦朧とする頭では何も考えられない。

だけど心のどこかで、考えるのを拒絶している私がいる。

もういやだ、何も知りたくない。

本当の事を知っても、どうにもならなくて泣くくらいなら、何も知らない方がいい。

せめてちゃんと騙してくれたら、私は嘘でも順平ともう一度夢を見られたのに。


あんなの、私の好きだった順平じゃない。






< 173 / 208 >

この作品をシェア

pagetop