季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
気が付くと、見慣れない白い天井の下にいた。

私はベッドの上に寝かされているようだ。

ここはどこだろう?

「気が付いた?」

声の方にゆっくり視線を向けると、そこには心配そうに私の顔を覗き込む早苗さんがいた。

「あ…。」

ひどく掠れた声が私の口からもれた。

慌てて起き上がろうとするけれど、体に力が入らない。

「まだ起きちゃダメだよ。横になってて。」

早苗さんは優しく私を制して、布団をかけ直した。

「ビックリしたよ。すごい熱だし…意識がなかったから。」

「え…?」

早苗さんの話によると、カフェのバイトに入る時間になっても私が来なかったので、店長が電話をしたらしい。

しかし何度電話しても繋がらず心配しているところに、ちょうど早苗さんが来たのだそうだ。

早苗さんは、私に何かあったのかと胸騒ぎを覚えてマンションに駆け付け、鍵がしまっていたので、管理人に事情を説明して部屋に入れてもらったところ、そんな状態の私がいたと言う。

急いで病院に運ぶと、私は高熱のせいでひどい脱水症状を起こしていたそうだ。

点滴をしたり検査をしたりしたようだけど、私は何も覚えていない。

「とりあえず…気が付いて良かった。あの時、俺が行かないと大変な事になってたよ。」

「すみません…。」


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