季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
翌日のお昼前、早苗さんが迎えに来てくれた。

財布も何も持って来なかった私の代わりに、早苗さんは会計を済ませてくれた。

「すみません…。後で保険証持ってきて精算したらお返しします。」

「いつでもいいから気にしないで。」

早苗さんは私を車に乗せて、自分のマンションに連れて行った。

てっきり送り届けられると思っていた私は、助手席でオロオロとうろたえてしまう。

「あの…私の家じゃないんですけど…。」

思わずわかりきった事を口走ると、早苗さんは事も無げに笑った。

「うん、知ってる。俺んちだね。」

エンジンを切って車を降りた早苗さんは、助手席のドアを開けてシートベルトを外し、私の手を取った。

「朱里に話したい事がある。それにお腹空いてるだろう?おいで。」

早苗さんに手を引かれ部屋に連れて行かれた。

この部屋に来るのはあの日以来だ。

「とりあえず昼御飯にしようか。用意するからゆっくりしてていいよ。」

ソファーに座ると、このソファーの上で早苗さんに抱かれた事を思い出して急に恥ずかしくなり、鼓動がどんどん速くなった。

ダメだ…心臓に悪い。

しばらくすると、早苗さんはダイニングテーブルに料理を並べて私を呼んだ。

私は少しホッとしてダイニングセットのイスに座り、早苗さんが作ってくれたスープやリゾットを二人で一緒に食べた。

「どう?口に合うかな?」

「とっても美味しいです。」

料理の味まであたたかくて優しい。



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