季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
食事の後はミルクティーを淹れてくれた。

ミルクティーを飲みながら、早苗さんはゆっくりと話し始めた。

「昨日久しぶりに佐倉社長が店に来たんだ。」

「佐倉社長って…佐倉代行サービスの?」

「うん、古い知り合いだから。あの会社、佐倉社長が主宰してる小さい劇団の役者をサクラとして雇ってるんだよ。」

「昔、順平がいたあの劇団の…?」

「そう。順平をうちの店に紹介してくれたのは佐倉社長だから、何か知ってるかもと思って、順平の事いろいろ尋ねてみたんだ。」

早苗さんは私の話していた昔の順平と、自分が知っている今の順平がどうしても同じだとは思えなかったらしい。

それは私も感じていた事だ。

「ちなみに今のバイトの俊希も佐倉社長の紹介で来たんだ。やっぱり劇団の役者で、昔の順平の事、俊希も知ってた。」

「あ…覚えてます、俊希くん。何度か一緒に飲みに行った事もあるし…。」

「朱里が辞めた後に入ったから会った事なかったんだね。」

早苗さんが佐倉社長から聞いた話によると、順平は最近、佐倉代行サービスを辞めたそうだ。

特に理由を言うわけでもなく、ただ辞めたいと言ったらしい。

「知らなかった…。私、順平がなんの仕事をしていて、いつもどこで何してるか、何も知らないんです。家でもほとんど話さないし、一緒にいる事もほとんどなくて…。」

「えっ…それって一緒にいる意味あるの?」

「……わかりません。」


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