季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「うん、うん…。そうか…。わかった、ありがとう。」

早苗さんは電話を切って、スマホをテーブルの上に置いた。

「昔、順平の部屋に遊びに行った事があるらしいんだけど…その時、チラッと写真を見たらしい。順平はすぐに隠したそうだけど…。」

「写真?」

「あいつ…双子の兄弟がいる。」

「…双子?」

「そっくりだったって。一卵性双生児ってやつかな。」

双子の兄弟がいて…でも順平は順平で…。

ダメだ、混乱してきた。

「双子の兄弟がいたとしても、順平は順平なんですよね。」

「うーん…。」

早苗さんは顎に手をあてて考え込んでいる。

しばらく黙って考え込んでいた早苗さんが、順平の履歴書を見ながら口を開いた。

「こうは考えられないか?朱里の付き合っていた順平が、本物の順平のふりをしていたって。つまり、朱里の付き合っていた順平が偽者の順平だったとしたら…。」

「……偽者の順平?」

ますます混乱してきた。

「双子の兄弟が、何かわけがあって順平のふりをしていたんじゃないか?」

「えっ…。」

だとしたら…私と付き合っていた順平は今どこにいるんだろう?

「やっぱり確かめてみるしかないな。」

「正直に話すと思いますか?」

「本人はきっと口を割らないよ。まずは外堀を埋めないと。」

「外堀を埋める…?」

具体的にどうすればいいのか、私は混乱する頭でぐるぐると考えた。

早苗さんは真剣な顔をして、テーブルの上で私の手をそっと握った。

「順平の事がハッキリしたら…もう一度、俺との事も考えてくれないか。」







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