季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
それからしばらくして、早苗さんは私をマンションまで送り届けてくれた。

このまま早苗さんの部屋にいたらどうかと言われたけれど、そういうわけにもいかない。

私自身の目で確かめたい。

私の大好きな優しい順平は、私の事を何よりも大事にしてくれる。

私のいやがる事や悲しむ事は絶対しない。

二人で一緒にいると、嬉しくて楽しい。

もし順平が私の好きな順平なら、同じように思ってくれるはずだ。




部屋に帰ると、珍しく順平がいた。

「ただいま。」

「なんだ、出掛けてたのか。」

「うん。」

順平は夕べ私がいなかった事に気付いていないみたいだ。

「ほら、これ見て。いいでしょ?」

私が順平からもらったネックレスを見せると、順平はそれを興味なさそうに見てから、一応話を合わせるふりをした。

「おお、いいじゃん。買ったのか?」

買ったのは順平だ。

「ううん。プレゼントでもらったんだけどね。チェーンが絡まって取れなくなったから、ずっとしまってたの。この間チェーンだけ取り替えてきた。」

「プレゼントって…。前の男?」

「そうかもね。」

確かに前の男には違いない。

「ね、今日は晩御飯どうする?」

「いい。これからまた出掛けるし。」

「そうなの?順平、一緒に暮らしててもあまり家にいないから…寂しいよ。」

「ん?ああ…。」



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