季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「私、いてもいなくても一緒みたいだね。昔はあんなに優しかったのにな…。やっぱり、私の事なんかもう好きじゃないんでしょ?」

「そんな事ない、好きだぞ。」

気持ちのこもっていない言葉が白々しい。

「ふーん…。この前、順平が女の子と楽しそうにイチャイチャしながら歩いてるとこ見たんだけど。」

もちろん嘘だけど。

順平は少し驚いているみたいだ。

「いつ?」

否定もしないのか。

「心当たりあるんだ。」

「いや…。」

心当たりありすぎて、どれの事かなって思ってるのかも。

「ああそうだ。美和がね、久しぶりに順平に会いたいって言ってたよ。」

「えっ…。」

「覚えてないの?よく一緒に御飯食べたり飲みに行ったりしたじゃない。ほら、髪の長いメガネの…。」

「ああ…。メガネの…。」

「思い出した?」

「ああ、うん。」

嘘ばっかり。

髪の長いメガネの美和なんて友達いないよ。

「あ、俺そろそろ出掛ける。ごめんな。」

「行ってらっしゃい。」

順平は少し焦った様子で出て行った。


やっぱり順平は私の好きな順平じゃない。

私の好きな順平なら、このネックレスを忘れているはずがないし、会った事もない友達の話をしたら“それ誰?俺知らない”と言うはずだ。

もしかしたら順平は、ボロが出るのを恐れて、私とあまり一緒にいないようにしていたのかも知れない。




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