季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「金も持ってないし、病気で高校中退してるからな。なんかあったら困るって、働くとこも住むとこもなかなか見つからなくて…仕方ないから俺が陽平の代わりにアパート借りて、バイトの面接受ける時の履歴書も俺の使って…。それから陽平は俺の名前を使うようになった。さすがに車の免許は貸さなかったけどな。」

「そうだったんだ…。」

私の好きだった順平が順平と名乗っていたのはそんな意味があったんだ。

「そんで…オマエと出会ったんだろ。陽平からよく話は聞かされてた。好きな子ができたって相談とかもされたしな。一目惚れだって。そんなに好きなら告っちまえって何度も言った。」

一目惚れ…。

私も初めて会った時から気になってた。

「幸せそうだったよ、陽平…。生まれて初めて彼女ができたってさ…。奥手だったし、病気で高校にも行けなかったし、それまで恋愛した経験もなかったんだ。」

「うん…。」

“こんなに好きになったの朱里が初めてだ”って言ってくれたっけ。

“女の子と付き合うのも、デートもキスも何もかも朱里が初めてだ”って言った時は、少し恥ずかしそうだった。

その時は、モテそうなのに意外だなと思ったけど…そういう理由があったんだ。



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