季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「だけどオマエと付き合って2年くらいで再発して…あいつ、気付いてたくせに我慢して病院に行こうとしなかったんだ。初めてちょっと大きい役もらえたから、舞台が終わってからって…。朱里に見てもらうんだって…。」

「そうなの…?」

「まぁ…俺が無理やり連れてったけどな。それでそのまま入院って事になって…どんどん悪くなって…3ヶ月後にはビックリするほど呆気なく逝った。」

やっぱり…。

そんな気はしていた。

なんとなく、彼はもうこの世にはいないんじゃないかと思っていた。

それをハッキリと言葉にして聞かされるのは、正直つらい。

「あいつがな…劇団のみんなには黙っててくれって言うんだ。こんな弱ってるとこ見られたくないし、同情なんかされたくないって。それから…自分に何があっても朱里には絶対言うなって。朱里が泣くのはイヤだって…。朱里には自分の元気な姿だけを覚えてて欲しいって…。もし朱里に会うことがあったら、芝居の勉強に海外に行くって、陽平のふりして言えって俺に言った。」

あの頃の彼の姿を思い出して涙が溢れた。

いつだってそうだった。

いつも優しく笑って、私がいやがる事や悲しむ事は、絶対にしなかった。

何よりも私を大事にしてくれた。



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