季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
朱里へ


朱里がこの手紙を読む頃には、
きっと俺はもうこの世にはいないだろう。


俺は朱里に謝らなきゃいけない事が2つある。


ひとつは、俺が嘘をついていた事。

俺の名前は陽平。順平じゃない。

順平は俺の双子の兄の名前なんだ。

病気のせいで高校を辞めて、
元気になってもそれがついて回って、
何もできなかった。

もしまた再発して俺が急にいなくなったら、
順平に俺のふりをしてもらおうと思ってた。

だから、順平のふりをしていたんだ。

ホントは朱里に“陽平”って呼んで欲しいっていつも思ってた。

でも結局ホントの事は言えなかった。ごめん。


もうひとつは、ずっと一緒にいようって何度も言ったのに、もう一緒にはいられない事。

俺が死んだら…朱里は俺の事なんか忘れて、
俺より強くて優しくて、
朱里を大事にしてくれる健康な人と
幸せになって欲しい。


俺は朱里に会えて幸せだったよ。

朱里と会うまでは、好きな事ができれば
いつ死んでもかまわないって思ってた。

だけど朱里と出会って初めて恋をして、
好きな人と一緒に生きたいって思えたんだ。

俺の手で朱里を幸せにしてあげたかったけど…約束守れなくてホントにごめん。

最後にもう一度会いたかったけど…きっと
朱里を泣かせちゃうから、やめておくよ。

朱里には俺の笑った顔だけ覚えてて欲しい。


俺の最初で最後の恋をありがとう。

幸せな時間をありがとう。

朱里、愛してる。

朱里の幸せを願ってるよ。


陽平より





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