季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
しばらく黙っていた壮介が、重い口を開いた。
「他に好きな人がいる。」
「は……?」
何それ?
なんなの、その中学生カップルの別れ文句みたいな言い訳は?
「好きな人って…本気で言ってる?」
「本気だよ。だから別れて欲しい。」
「婚約を破談にして、結婚式をキャンセルしてまで?」
「式場はもうキャンセルした。直前だから支払った内金は戻って来なかった。」
「何それ、なんでそんな勝手なの?有り得ないよ、いくらなんでも無責任過ぎる!!」
結婚を決めてから今日までの半年間、どれだけその準備に時間と労力とお金を費やしてきたと思ってるの?
壮介は仕事が忙しいってロクに手伝いもしなかったけど、私は仕事の後とか休みの日とか、あれこれ考えて必死で頑張ってきたのに。
「朱里には悪いけど…俺はこれから、それ以上に重い責任を背負うから。」
「なんの事…?」
「子供ができた。」
「え…?」
「俺は彼女と結婚する。」
壮介は真顔でそう言い放つと、深々と頭を下げた。
「だから、俺と別れて下さい。」