季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
翌日。

カフェのバイトを終えて少しした頃、早苗さんが事務所にやって来た。

私はコーヒーを2つトレイに乗せて、事務所のドアをノックした。

「ハイ。」

ドアを開けて、早苗さんが顔をのぞかせた。

「あ…朱里…。」

「コーヒー持って来ました。少しお時間いいですか?」

「ん、どうぞ。」

事務所に入り、テーブルの上にコーヒーを置いて、向かい合わせに座った。

「朱里から来てくれるなんて珍しいな。」

「お話ししたい事があって…。」

それから私は、少し時間はかかったけれど、順平から聞いた事を順を追って話した。

早苗さんはコーヒーを飲みながら、静かに耳を傾けていた。

すべてを話し終わると、早苗さんはため息をついた。

「そうか…。そんな経緯があったんだな。双子の弟か…。」

「亡くなったって聞いた時は正直ショックだったけど…やっぱりそうなんだなって…。順平は彼のために身代わりになってたんです。昨日、順平がお墓参りに連れて行ってくれました。変な言い方かも知れないけど、私も順平もやっと肩の荷が降りたというか…。」

早苗さんはコーヒーを飲み干して、何か考えている様子で、ソーサーの上にそっとカップを置いた。

「それで…順平はなんて?」

「もう一緒に暮らす必要もないし、マンションを引き払って地元に帰るそうです。」

「そうか…。順平、地元に帰るのか…。」

早苗さんは少し寂しそうだ。

「そうなんです。だから私にも早く出てけってうるさくて。」

私が笑ってそう言うと、早苗さんは少しためらいがちに私の方を見た。


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