季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
捨てる男在れば拾う神と悪魔のような男在り
なぜこういう事になってしまったんだろう。

私は今、昔の男が住んでいるという見知らぬマンションの玄関で、呆然と立ち尽くしている。

「そんなとこ突っ立ってねーで入れば?」

順平はこっちも向かずに、めんどくさそうにそう言った。



順平が事務所を出ようとした時、私は無意識のうちに、その背中にしがみついていた。

とにかく一人になるのが怖くて、恥も外聞もなく叫んだ。

「お願い、一人にしないで!!」

今思えば、なんて恥ずかしい言葉を吐いてしまったんだろう。

まるで去っていく恋人に必死ですがり付く女のようだ。

いくらオバケが怖いからって、いい歳した大人がみっともない。

そんな私を見て、順平は悪魔のように意地悪な笑みを浮かべた。

「あれ?もしかしてビビってんの?」

私がオバケ苦手な事、知ってるくせに。

「ビビってなんか…!!」

思わず言い返したものの、本当は怖くて怖くて仕方がなかった。

「じゃあ、いい加減離せよ。早く帰りたい。」

「うっ…。」

この手を離すと順平は帰ってしまう。

私はこの部屋で一人震えながら朝を待つんだ。

そう思うと、手を離す事ができなかった。

順平にしがみつく手に、更に力が入る。

順平はニヤニヤしながら、泣きそうになっている情けない私の顔を、楽しげに見ていた。


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