季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
翌日の仕事帰り。
いつものカフェの窓際の席に座り、私は一人でカフェラテをすすった。
結婚式を目前に控えて別れ話をしたのが昨日の今日であっても、同棲しているのだから、どちらかが出て行かない限り、帰る家は同じだ。
どう考えても腑に落ちない。
“朱里にとっての結婚は世間体なんだろ?そういうところがイヤなんだ。”
壮介の言葉が何度もくりかえし頭の中に響く。
3年も付き合っておいて、なんで今更そんな事を言うのか。
イヤならもっと早く言ってくれれば良かったものを。
そういえば、壮介のプロポーズの言葉はなんだっただろう?
私はカフェラテを一口飲んで首をかしげた。
あれ?
覚えてない…。
というかむしろ、プロポーズの言葉はなかったような…。
なのになぜ結婚する事になったんだっけ?
記憶をたぐり寄せると、割と簡単にその答えは見つかった。
そうだ。
半年前、二人でショッピングモールを歩いていた時に、ブライダルサロンの前を何気なく通りかかったのがきっかけだった。
何かイベントをやっていて、その時私は、有名デザイナーの新作だというウエディングドレスを眺めていた。
もうそろそろ結婚したいと思っていたし、いつになったら壮介はプロポーズしてくれるんだろうと思っていた。
ウエディングドレスをしげしげと眺めている私を見て、私たちの事を、結婚を予定しているカップルだと思ったんだろう。
口のうまいサロンの店員が私たちを店の奥に案内して、最近流行りのウエディングプランに今ならこんな素敵な特典がついてお得ですよなんて言って、あれよあれよという間に式場を予約していた。