季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
私はカフェの片隅で、カフェラテのおかわりを飲みながらぼんやりとしていた。

カップを持つ手が少し震えている。

とうとう私は、この手で舟を漕ぎ出したのだ。

嘘という名のいつ沈むかも知れない泥舟で、私は世間という荒れた大海原を進む。

どこを目指し、どこへたどり着こうとしているのかもわからない。

ひとつだけ言えるのは、今よりも心穏やかに暮らせる静かな場所に落ち着けたら、この航海は間違いではないという事だ。


モーニングを食べて腹ごしらえした後、私は母親に電話をした。

娘の突然の結婚延期に驚いていたが、壮介の父親が大病を患い、今はこれが一番の選択だと二人で決めたと言うと、母親は不服そうではあったが、そういう事なら仕方ないと、その嘘をあっさり信じた。

そしてその代わりと言ってはなんだけれど、挙式を予定していた日に親戚を招き、食事会を開いて挨拶とお詫びだけでもしようと思う、と話した。

親戚の目を気にする母親は、一応それで面目が保たれると思ったのか、後の事は二人に任せると言った。

母親はどこまでも世間体を気にする。

そんな母親に育てられた私も同じ穴のムジナ。

人からどう思われているのか、どんな目で見られているのか、気になって仕方がない。

だから私は、壮介みたいに周りの目も気にせず自分勝手に幸せを追い求める事ができない。


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