季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
その晩私は、マスターのバーのキッチンに立っていた。

アルバイトの応募の電話をした時、応対したのが運良くマスターだった。

事情を説明してアルバイトさせて下さいと懇願する私を、マスターは快く雇ってくれた。

最初から朱里ちゃんに頼もうと思ってたんだ、とマスターは言っていた。

早速今夜から頼むよと言われ、指定された時間にバーに足を運んだ。

仕事の内容や調理器具と食器類の場所、メニューの説明などをしてもらい、マスターに言われた通り実際に料理を作ってみる。

こういう店で働くのは初めてだけど、ずっと家事をしていたから料理も洗い物もまったく苦にはならない。

マスターの弟だというカフェの店長に、私の作ったオムライスを賄いで出した。

店のオーナーでもあるマスターが店長に、私をカフェでも雇うと言ってくれたおかげで、どうにか昼の仕事も確保する事ができた。

カフェのキッチンの人手が足りないそうで、私はキッチンで調理を担当する事になった。

おまけに昼も夜も、賄いが付くそうだ。

その賄いは私が作る事になるんだけど、そんなのお安い御用だ。

料理には少し自信がある。

あっという間に、しかもこんなに条件の良い仕事が決まるなんて、なんだか信じられない。

捨てる神在れば拾う神在りって、この事だ。


とは言え私を捨てたのは神なんかではなく、浮気した挙げ句彼女を孕ませた壮介だったけど。






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