季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「あ゛ぁ?!」

8時前、バーのキッチンでオレンジを切っていると、後ろで妙な声がした。

振り返るとそこには、この上なくイヤそうな顔をした順平がいた。

「なんでオマエがいるんだよ?!」

「なんでって…。」

私が答えようとすると、カウンターからマスターが顔をのぞかせた。

「今日からバイトに来てもらう事になったんだよ。カフェのキッチンにも入ってもらう。」

「はぁっ?!なんでそうなるわけ?」

マスターは不服そうな順平に向かって、ニッコリと笑った。

「オーナーの俺が決めた。文句ある?」

笑ってるけど…目が笑ってない…。

順平は目をそらして、小さく舌打ちをした。

「…ねぇよ!!」

マスターって一体…?

逆らうと実はものすごく怖いとか…?

「朱里ちゃんが気にする事はないよ。朱里ちゃんをバイトに選んだのは、オーナーの俺だからね。」

「ありがとうございます…。」

「アイツ口は悪いけど、根っからの悪いやつではないから、仲良くしてやって。」

「ハイ。」

とは言ったものの、順平は私と仲良くなんてしたくないだろう。

仕事中、順平は私とは必要な事以外は話さず、目も合わせようとしなかった。



その夜は1時半頃に最後の客を送り出し閉店になった。

「順平、朱里ちゃんに閉店作業教えて。」

「なんで俺が…。」

順平は小声でブツブツ文句を言いながらも、閉店作業の仕方を教えてくれた。

…かなりめんどくさそうではあったけど。


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