季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
焼け木杭に火は付けない
コンビニからマンションまでの道のりを一人で歩いていると、後ろから歩いてきた順平に追い越された。

追い越した私なんか眼中にないのだろう。

私には目もくれずスタスタと歩いていく。

別にいいけどね。

最初から優しさなんか期待していない。

立ち止まり振り返って私を待つ優しさが順平にあれば、きっと私はあの時、もう少しだけでも順平の背中を見ていられたはずだ。

結局、私は見失ってしまったんだと思う。

夢に向かってつき進む順平の背中を。

どんなに手を伸ばしても追い付けなくて、置き去りにされた私は別の道を歩くことにした。

その道を照らしてくれる道しるべのような人を探し求めて、やっと見つけたのが壮介だった。

そう、思ったんだけどな。

過ぎた事を嘆いても仕方ない。

いつの間にか壮介も私とは別の道を選び、そこで見つけた彼女と歩いていた。

それだけだ。

人の気持ちなんて、いつどこで、どう変わるのかなんてわからない。

もしあの時、壮介が私に何も言わなかったら、私はきっと彼女の存在には気付かなかった。

そしてそのまま何事もなかったように壮介と結婚していただろう。

私はそれでも良かったのに。

知らない方が幸せな事だってある。

たとえ騙されていたとしても、壮介が言わなければ、私の世界は何も変わらなかった。

どうせなら隠し通して欲しかった。

だから今、私は背負っている。

壮介が明かしてしまった、裏切りという名の重い罪を。


かつて私が犯した罪と一緒に。





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