季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
自分の部屋のドアを閉めて、布団の上に体を投げ出した。

一体なんなの、あれ?

順平が何をしたいのか、あれに一体なんの意味があったのかはわからない。

ただ、順平の言った事は本当の事。

ここ数ヶ月、壮介は私の体に触れるどころか、キスさえしてくれなかった。

長いこと一緒にいるとそうなるものなのかなぁと思いはしても、それが寂しいとか悲しいとは思わなかった。

そんな人と結婚しようとしていたなんて、よく考えたらおかしな話だ。

愛しても、愛されてもいないのに。


順平のキスにも、愛なんて微塵もない。

それはわかってる。

だけどほんの少し。

そう、ほんの少しだけ、順平と付き合っていたあの頃みたいに体の奥が熱くなるのを感じた。

私もやっぱり女なんだな。

こんな時でも、誰かに求められたいと思っているなんて。

……ばかばかしい。

順平との恋は、ずっと前に終わったんだ。

もうあんな思いはしたくない。

順平が私の好きな順平であるほど、手の届かない虚しさと、順平が突然目の前から消えてしまうかも知れない不安に、何度も一人で泣いたじゃないか。

今更、元の関係に戻りたいなんて思わない。

私も順平も、あの頃とは違う。

私は確実に歳を取ったし、順平はあの頃みたいにキラキラした目で夢を語ったりしない。

もうずっと前に終わらせた恋だ。

さっきの事は、酔った順平の仕掛けた、単なる悪ふざけだろう。

何もなかったことにして、今夜はもう眠ってしまおう。

明日になればきっと、何事もなかったように、元通りの距離を保っているはず。

私も、順平も。










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