季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
翌朝、目覚めた頃には順平はもういなかった。

私はグラスに注いだ牛乳とバターロールで質素な朝食を済ませた。

今日からカフェのキッチンでバイトする事になっている。

昨日の晩、“ランチの仕込みを教えるから明日は9時半に来て”と店長に言われた。

ランチタイムを終えて店が落ち着いたら、私のカフェでの仕事は終わり。

バーのバイトに入る6時まで、しばらく時間がある。

グラスを洗いながら、ふと思う。

順平はバーのバイトに入る晩の8時頃まで、何をしているのだろう。

なんの仕事をしているのか、今でも芝居を続けているのかさえ知らない。

だけど、それを知って何になるだろう?

必要以上に深く関わらない方がいい。

それがきっとお互いのためだ。

そこに未来はないのだから。



身支度を整え家を出た私は、カフェに足を運んだ。

キッチン用の制服を受け取り、それに着替えて店長から仕事の説明を受けた。

ランチタイムは毎日数種類の決まったメニューと、その日の日替わりランチがあって、大半の客が日替わりを頼むそうだ。

今日の日替わりはチーズチキンカツのトマトソース添えとグリーンサラダ。

ライスとランチスープはすべてのランチメニューに付いている。

私は早速、店長に手順を教わりながら、ランチの仕込みを始めた。

家で二人分の料理を作るのとはわけが違う。

たくさんの数を作るのだから手際よく、お客さんに出すものだから丁寧に。

客として食べる側から、店で作る側になった。

なんだか不思議な気分だ。






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