季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
ランチの仕込みを終えた後は、他のメニューのレシピを書いたノートを渡され、それを見ながら店長の指示通りにいくつかの料理を作った。

店長は私の作った料理を一口ずつ味見して、満足そうにうなずいた。

「うん、合格かな。これバイトのみんなの賄いにするから、後で食べていいよ。」

「ありがとうございます。」

ただで食事にありつける有り難さ。

お金がない今の私には身に染みる。

今まで考えた事もなかったけど、まともな食事ができるって幸せだ。

よし、頑張って働こう。


ランチタイムは店長と二人で調理をした。

大きなミスもなく、初めての割には我ながらよく頑張ったと思う。

1時半を過ぎた頃には客足が落ち着き、ホールを担当している女の子と二人で賄いを食べる事になった。

恵梨奈という名前の21歳のその子は、男好きしそうな見た目が今時の女子という感じで、聞いてもいないのに自分の事をペラペラ喋る。

適当に相槌を打って聞き流していれば済むんだから、個人的な事を根掘り葉掘り聞かれるよりはましかな。

「この後ね、デートなんですよー。」

「へぇ、楽しみだね。」

とりあえず話を広げていろいろ聞き出してやれば、余計な事を話さなくて済む。


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