季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
なんて事だ。

私は今、順平の腕の中にいる。

背後から抱き寄せられ、これでもかと言うくらいに密着されている。

すぐ目の前にはイヤミなほど整った順平の顔。

その大きな手は私の頭を強引に引き寄せ、いつも憎まれ口ばかり叩く口角の上がった自信有りげな唇は、私の唇を塞いでいる。


非常にマズイ事になっている。

どうしてこんな事になってしまったのか?

どうでもいい事に捲き込まれてしまった。




目一杯おしゃれをして予告通り10時過ぎに一人でバーにやって来た恵梨奈は、カウンター席に座り、スクリュードライバーと野菜スティックをオーダーして、時折私やマスターとも会話をしながらお酒を飲んだ。

そしてもうすぐ12時になろうかと言う頃。

キッチンで私が洗い物をして、順平がグラスを拭いていると、恵梨奈は順平目当ての若い女性客の目を盗むように、そこにやって来た。

恵梨奈が酔ったふうを装って、“バイト終わるの待ってるから部屋に泊めて”と、甘えた声で順平にお願いした。

すると美しい顔をした悪魔のようなこの男は、手にしていたグラスを静かに置き、洗い物をしていた私を背後から抱き寄せた。

そしていけしゃあしゃあと言い放ちやがった。

「これ、俺の女。こいつと一緒に暮らしてるから、オマエと部屋でやんの無理だわ。」

恵梨奈だけでなく私も、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。


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