季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
恵梨奈はもういなくなったと言うのに、順平の唇は私の唇を捕らえて離さない。

順平の舌が私の唇をこじ開けようとした。

私は慌てて身をよじり、順平から逃れた。

「いい加減離してよ!」

「なんだ、今日はもう終わり?それとも続きは帰ってからにする?」

「はぁっ?何言ってんのよ、するわけないでしょ!!」

私は濡れた手で順平の体を押し返す。

「だいたいなんであんな嘘つくの?!恵梨奈はアンタの事本気で好きだったんでしょ?!それに私は明日からも恵梨奈と一緒に仕事しなきゃいけないんだからね!!」

「大丈夫だろ。あいつの本気なんてやっすいモンだから。せいぜい俺の顔と体に惚れてたって程度。見ただろ、あいつの持ち物。俺以外にも都合のいい男がいっぱいいるんだよ。」

確かに恵梨奈はモテそうだ。

カフェでのバイトしかしていないと言っていたのに、歳の割に高価な物を身に着けている。

なるほど、お互い様ってとこか。

「だからって…そんな嘘に私を捲き込まないでよ。」

「何?本気で言って欲しかった?」

「…バカじゃないの。」

一体何を考えているんだ、この男は?

顔が良ければすべて許されると思うなよ。

ああ…でも、嘘に順平を捲き込もうとしているのは私も同じだ。

順平より私の嘘の方がタチが悪い。

これも、お互い様ってとこか。




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