季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
その夜は部屋に帰っても特に何があるわけでもなく、続きどころか会話さえしなかった。

もちろん、続きを期待してたわけじゃない。

文句のひとつでも言ってやりたかったし、なんであんな事する必要があったのかと聞きたかっただけだ。

私はまた、不覚にも隙をつかれてしまった。

なんの前触れもなく、突然キスするのはやめて欲しい。

今更清純ぶるつもりもないし減るもんでもないけれど、その意味のないキスの相手が順平だと思うと複雑な気分になる。

ただからかっているだけなのか、私を困らせて楽しんでいるのか。

わざわざ私に構わなくたって、順平にキスしてもらいたいかわいい女の子なんて、たくさんいるだろうに。

正直言って、順平が何を考えているのかさっぱりわからない。

もしかしたら、実はなんにも考えていないのかも知れない。

なんにも考えなくて済むのなら、私はもっとラクになれるだろう。

世間体とかつまらない見栄とか人目を気にせずに、自分の気持ちに正直に、欲しい物を欲しいと素直に言えたら、きっと楽しく前向きに生きられるだろう。


たかがキスされた程度の事で、順平は今も私を好きなのかも知れないと、勘違いしてしまうくらいに。




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