季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
翌日。

カフェで顔を合わせた恵梨奈は、いつもとたいして変わりない様子に見えた。

順平の言う通り、本気と言うほど本気でもなかったのかな。

私は余計な事を話さないで済むように、せっせとランチの仕込みをした。

だけど賄いを食べるのは同じ時間だ。

恵梨奈はチキンのクリーム煮をスプーンですくいながら、ジーッと私を見た。

「朱里さん、ホントに順平くんと付き合ってるんですかー?」

やっぱり来たか、この質問。

ここはハッキリと否定した方がいいのか、それとも順平の下らない嘘に付き合ってやった方がいいのか。

付き合ってはいないけど、同じ部屋で暮らしているのは事実。

あれは嘘だとバラすとしても、順平がなぜそんな嘘をついたのかと聞かれるのも面倒だ。

順平の本音をそのまま言う勇気はない。

ここは適当に話を合わせて濁しておくか。

「うん…まぁ。」

「えー、信じられなーい!」

そうでしょうよ。

昔はともかく、今は付き合ってないからね。

「順平くん、今までそんなの一度も言った事なかったのにー。朱里さんも黙ってるなんて、ひどいですー。」

「あ…うん、ごめんね。言いにくくて…。」

なんで私が8つも歳下の子に、ありもしない事を責められて謝らなきゃいけないんだ。



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