季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
恵梨奈は順平のついた嘘を信じているようだ。

私の事を順平の彼女だと思ってる。

面倒な事になった。

付き合ってもいないのに付き合っていると、一人の人に嘘をつくだけでも面倒なのに、私はこれから、順平を偽壮介に仕立て上げて、この人と結婚すると身内を騙そうとしている。

予行演習…?

いやいや、お遊戯会じゃあるまいし。

だんだんその日が迫ってきた。

本当にうまくいくかな。

順平は一応プロのサクラなんだから、普通の人よりは芝居をするのが上手なはずだ。

じゃあ、問題は私だ。

両親や親戚の前で不自然な振る舞いをしないように気を付けなきゃ。



翌日、カフェでランチの仕込みを終えた後、いつもより早めにバイトを上がらせてもらい、明日の食事会のために、佐倉代行サービスの事務所に打ち合わせをしに行った。

順平を偽壮介に仕立て上げるため、細かい設定をする。

「二人は合コンで知り合ったんだね。じゃあそこは友人の紹介とでもしておこうか。」

佐倉社長はメモを取りながら、私に壮介との馴れ初めや付き合っていた頃の事を、事細かに尋ねた。

順平は長い足を投げ出すようにしてソファーに身を預け、つまらなさそうに壮介の写真とプロフィールを眺めている。

「結婚延期の理由は…彼の父親の病気か…。具体的にはなんの病気にする?」

「心臓病…とか?」

「心臓か…。もうちょっと説得力あるのが欲しいな。食道がんとかどうだろう?手術を間近に控えている事にしようか。」

壮介の父親には申し訳ないが、ここは勘弁してもらおう。


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