季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「二人はなんて呼び合ってたの?」

「お互いに名前で。」

「壮介と朱里ね。くれぐれも名前だけは間違えないようにね。」

確かに私が間違えて順平の名前を呼んだりしたら大変だ。

気を付けないと。



打ち合わせを終えた私は、食事会に着ていく服を用意するため、残っていた荷物をこれから取りに行くと壮介に電話をした。

壮介は少し慌てた様子で、明日なら休みで家にいるから明日にしてくれないかと言った。

食事会は明日だ。

明日では間に合わない。

私は合鍵を持ってるし、急ぎで必要な物があるから、壮介がいなくてもこれから勝手に取りに行くと言った。

それなら定時で仕事を終わらせて急いで帰るからせめて夕方にしてくれ、夕方なら荷物を車で運んでやると言われ、仕方なくそれに従う事にした。

夕方なら順平は留守のはずだ。

壮介と鉢合わせになる事はないだろう。

カフェに寄るとマスターがいたので、バーの仕込みを手伝いながら、夕方に用があるので来るのが少し遅くなると伝えた。

「用って?」

「元婚約者の部屋に荷物を取りに行くんです。夕方なら車で運んでやるって。」

「そうか…。順平には?」

「言ってません。」

「じゃあさ、順平に頼めば?車貸すよ。」

確かに壮介に頼むのも本当はイヤだけど、順平に頼むのはもっと気が引ける。

「でも、順平は面倒だって言うと思います。」

「いいよ、俺から言ってあげるから大丈夫。」

マスターは早速順平に電話をして、私と一緒に壮介の部屋へ荷物を取りに行けと命じてしまった。



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