季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
部屋と車を何度か往復して、最後の荷物を運び出そうとした時、壮介が封筒を差し出した。

「これ…全額は無理だけど、とりあえず…。」

「うん。」

「残りもできるだけ早く返すから。用意できたら連絡する。」

「わかった。」

お金の入った封筒を受け取り、バッグにしまった。

「今日は彼女いないの?」

「出掛けてる。」

夕方なのに食事の用意もしないで?

なんて、余計なお世話か。

「朱里、もう新しい男できたんだ。」

「え?」

「誰でも良かったんだな。だったら我慢なんかしないで、もっと早く別れようって言えば良かった。」

何それ。

「それって、我慢しなきゃいけないほど、私と一緒にいるのは苦痛だったって事?」

「朱里には俺しかいないんだと思ってたから、見捨てられなかった。」

随分とひどい言われよう。

「自惚れてる。」

思わずポツリと呟いた。

それは壮介に対しての言葉だったのか、それとも私自身に対しての言葉なのか。

私だって壮介が他の女を選ぶなんて思っていなかった。

お互いにたいして好きでもなかったのに、なんのために3年も一緒にいたんだろう。

こんなの、恋とも愛とも呼べない。

壮介と過ごした日々を振り返っても、胸が熱くしめつけられるような思い出なんて、ひとつもなかった。

悲しさとか悔しさを通り越して、ただ虚しさだけが心に残った。


私は合鍵を玄関の下駄箱の上に置き、別れの言葉もなく、最後の荷物を手に部屋を出た。




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