季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
己の欲せざるキスは人に施す勿れ
それから順平は何も言わずに車を運転して、部屋に荷物を運ぶのを手伝ってくれた。

荷物を運び終えて、私は大きく息をつく。

これで壮介とは、完全に終わったんだな。

順平は冷蔵庫からペットボトルを取り出し、ソファーに座って水を飲んだ。

「あの…ありがとね。」

「ん?ああ。」

「すごく助かった。」

「なんだよ。珍しく素直じゃん。」

順平は少し意地悪く笑った。

「オマエ、男見る目ないな。」

「そう?…だね。」

確かに順平の言う通りだ。

嘘だって事はわかってるけど、順平が壮介の目の前で言ってくれた言葉は、正直嬉しかった。

壮介は私を綺麗になんてしてくれなかったし、私も壮介のために綺麗になろうなんて、思わなかった。

壮介に愛されていなかったとハッキリわかった事は、私にとっては良かったのかも知れない。

「男も女も、付き合う相手でいくらでも変わるだろ。今度はもっといい男選ぶんだな。」

「うん、そうする。」

「念のため言っとくけど、服買ってやるとか嘘だからな。」

「わかってるよ。嘘でも嬉しかったけどね。」

普段なら言わないような言葉が、自分の口からさらりと出てきて、少し驚いた。

ああ、平気だって思ってたけど、少しは参ってるんだな。


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