季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「嘘でも嬉しいって…。相当あいつに大事にされてなかったんだな、オマエ。」

「そうみたいだね。誰でも良かったんなら、我慢しないでもっと早く別れようって言えば良かったって言われた。壮介はね、私には壮介しかいないと思ったから、私を見捨てる事ができなかったんだって。自惚れてるよね。優しさのつもりだったのかな?」

「ふーん…。めんどくせぇ男だな。そんなの優しさじゃねぇじゃん。優しさって言うなら、むしろ早く解放してやるべきだろ。」

「うん、そうだね。」

いつになく順平の口数が多い。

もしかして慰めてくれてるつもりなのかな?

「面倒な事に付き合わせてごめんね。たいした事はできないけど、何かお礼しないとね。」

「ホントにな。じゃあ、腹減ったからなんか飯作れ。」

「そんなんでいいの?」

「まずかったら許さん。」

いつも通り、どこまでも偉そうな順平の態度が少し笑える。

私は冷蔵庫を開けて、思わず吹き出した。

「飯作れはいいけど…冷蔵庫の中、食材が何もないね。」

順平はわかっていたはずだ。

冷蔵庫の中に入っているのはほんの少しの酒のあてと、水とビールと、私が買った牛乳だけ。

「買い物に行かないと料理できないよ。でも今から買い物して料理作ってたら、バイト行くのもっと遅くなるね。どうする?」


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