季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
バーでの仕事を終えて、いつものように部屋に帰った。

昼間に運び込んだ荷物を端に寄せて、布団を敷く場所を確保した。

順平はシャワーを浴びている。

私は着替えを用意しながら、ぼんやりと順平の事を考えている。

順平はどうして私にキスをするんだろう?

恵梨奈とはセックスまでしておいて、キスは一度もしなかったって言ってたのに。

ほんの数日前に順平と再会してから、私は何度順平にキスされただろう?

それはいつも突然で、私の意思なんかおかまいなく、強引なキスだった。

順平にとっては深い意味なんかないのだろうけど、これ以上あんな事されたら、私は完全に勘違いして戻れなくなってしまうんじゃないかと不安になる。

あの頃の順平のキスは、いつも優しかった。

私を見つめる目も、抱きしめる手も、愛情に溢れていた。

私も順平の事が本気で好きだった。

好きになるほどそばにいるのが苦しくて、私は順平と離れる事を決めたのに。


“男も女も、付き合う相手でいくらでも変わるだろ。今度はもっといい男選ぶんだな。”


順平の言葉を思い出して、私は思わず苦笑いをした。

順平は私と付き合っていた事で、どう変わったんだろう?

別れてから何があったのかは知らないけれど、今の順平はあの頃とは全然違う。

私も変わったと思う。

私も順平も、あの頃とは違う。

今更もう、元のようには戻れない。

私が昔の話をしないのは、それがわかっているからなのかも知れない。










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