季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
何事もなかったように夜が明けて、ついにその日はやって来た。

親戚との食事会で、偽壮介に仕立て上げた順平を紹介する日だ。

私は荷物の中から、まだ新しいスーツを選び袖を通した。

今日1日が問題なく終われば、これで私の気持ちも少しはラクになれるはず。

両親や親戚に嘘をつく事は多少良心が痛むけれど、それよりも私は順平を壮介として紹介する事の方が気が重かった。

最初から私が仕組んだ事だし、今をやり過ごすにはこうするしかない。

今日が済んでほとぼりが覚めたら、私はまた、壮介と離婚したと大きな嘘をつかなくてはいけない。

嘘に嘘を重ねて、ありもしなかった結婚と離婚を背負って生きていく。

考えてみたらバカらしい。

正直に事情を話し、壮介とは別れたと言えたらどんなにラクだろう。

だけどもう、今更後には引けない。

ここまで来たからには覚悟を決めなきゃ。

頑張れ、私。

怯むな、私。

絶対に負けちゃダメだ。

どこかで迷っている自分に打ち勝て。


きっちりとスーツを着込み、いつもより念入りに化粧をして、私は戦場へ向かう戦士のような気持ちで部屋のドアを開けた。

そこにはいつもと違うスーツ姿の順平がいた。

いつもは無造作な髪を、小綺麗にセットしている。

今日の順平は偽壮介、私の唯一の味方だ。

大丈夫、なんとかなる。






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