季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「一度嘘ついてやり過ごしても、またその上に嘘を重ねて苦しむのは朱里だって。俺は自分の事でいっぱいになって、まさか朱里がそこまで思い詰めてるとは思ってなかったから…。」

私は壮介をかばおうとしたわけじゃない。

ただ、私自身を守りたかった。

そのために嘘をつこうとした。

「私は別に、壮介をかばおうとしたわけじゃないよ。結婚式を目前にして捨てられたなんて恥ずかしくて言えなかったの。それだけ。」

「朱里らしいな。でも、俺が悪かった。」

壮介が初めて私に対して、自分の非を認め謝罪の言葉を口にした。

「もういいや…。計画台無し…。どっちにしてもしばらくは陰でこそこそ言われるけど…親に大きな嘘をつかなくて済んだ。」

私は肩の荷がおりたような、ほんの少しラクになれた気がした。

「あ、そうだ。これ…。」

壮介はズボンのポケットを探り、何かを取り出して私の目の前にかざした。

それはいつか順平がくれたネックレスだった。

「クローゼットの隅の方に落ちてた。」

壮介は私の手にそれを握らせた。

「大事なもの?」

「うん…どうかな。でも、届けてくれてありがとう。これどうしたっけと思ってた。」

壮介とこうして普通に会話をしている事を不思議に思いながら、私はネックレスをジャケットのポケットに入れた。



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