季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「ここの支払いは俺がするから。」

「お金ないんでしょ?」

「なんとかする。それくらいはしないとな。」

今頃になって男気見せられてもな。

思わず苦笑いすると、壮介も笑った。

「今更なんだけど…壮介は、私の事、好きだった?」

「好きだったとは思う。けど、なんか家族に近かった気がする。」

壮介の“家族に近かった”という言葉は、私の中にストンと落ちてきた。

家族みたいだったから、ドキドキとかしなかったのかな。

「ああ…なるほどね。私もそうなのかも。もう家族にはなれないけどね。」

「うん…。ごめんな、長い間縛り付けて。」

「もういいや。これからまた、ちゃんと好きになって、家族になりたいって思える人探す。」

「彼氏は?」

ああ、そうか。

壮介は順平の事、私の彼氏だと思ってるんだった。

「そうだね。それも考えとく。」

「じゃあ…俺、行くよ。」

「うん。ありがとう。元気でね。」

その言葉は、私の口から自然に飛び出した。

結婚式直前に他の女を選んで私を捨てた婚約者にお礼を言うのもおかしな話だ。

だけどなぜだか、そう言いたかった。

「ありがとう。元気でな。」

壮介もそう言って、笑って手を振った。

壮介とは結婚して幸せにはなれなかったけど、私はやっと、順平を忘れるために壮介と一緒に過ごした日々も、全く無駄ではなかったと思えた。




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