季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
私は一人で電車に乗り、ぼんやりと窓の外を眺めている。


親戚を送り出し、両親にも改めて嘘をついた事を謝って、会計を済ませようとレジに行くと、順平は伝言を残して帰った後だった。


“バイトあるから先に帰る。”


私はその走り書きのようなメモをジッと見て、ポケットにくしゃりと押し込んだ。


順平と付き合い出してまだ間もない頃、私の誕生日にプレゼントを買うお金がないからと、ケーキと一緒に短い手紙をくれた事を思い出す。

丁寧に書かれた、順平の少しクセのある文字。

あの手紙はどこにやったかな。

それを見ると順平を忘れられなくなりそうで、でも捨てられなくて、何かに入れて封印したような気がする。

封印したとは言え、その内容は覚えている。


“朱里、誕生日おめでとう。
これからもずっと一緒にいよう。
愛してる。”


月並みだけど、その手紙をもらった時は本当に嬉しかった。


今の順平からは、きっとそんな言葉は出てこないと思う。

ましてや相手は、何も言わずに順平の前から姿を消した私。

順平も私も、あの頃はまだ若かった。

一緒にいると嬉しくて、一緒にいない時も順平の事ばかり考えていた。

目の前に愛する人がいる事がすべてだった。

それなのに私はいつの間に、まだ見ぬ未来の幸せばかりを追い求めるようになったんだろう?

私には、順平との“ずっと一緒にいよう”という不確かな約束を信じる勇気はなかった。





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