季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
バーに着くと、マスターが笑顔で出迎えてくれた。

バイトの時間までまだ少し時間がある。

マスターがコーヒーを淹れてくれた。

「朱里ちゃん、お疲れ様。」

「ありがとうございます。」

「うまくいった?」

うーん、どっちだろう?

計画は大失敗。

なのにこの清々しさはなんだろう?

「どこかの誰かさんのおかげで、私の計画は台無しです。」

マスター、笑ってる。

ここにいない誰かさんの仏頂面でも想像したのかな。

「それでも朱里ちゃん、いい顔してる。」

「嘘をつく必要がなくなりましたからね…。肩の荷がおりたというか、ラクになりました。」

「それは良かった。」

後で順平に会ったら、依頼の内容と全然違うって文句言ってやろう。




12時半を過ぎた頃。


土曜日の割に来客が少なかったので、マスターは私と順平に、今日は疲れただろうから、もう上がっていいよと言った。

私と順平はきりの良いところで仕事を終え、1時頃にバーを出た。

いつものように順平はスタスタと私の前を歩いていく。

私は小走りにその背中を追いかけ、順平の横に並んだ。

「今日はありがとう。」

私がお礼を言うと、順平は右の口角を上げて笑った。

「おー、今日は素直だな。明日は槍でも降るんじゃねぇのか?」

順平の憎まれ口も、今日だけはイヤな気がしない。


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