季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
日が傾いて、窓の外が暗くなってきた。

オフィス街は仕事を終えた人たちの姿が目立ち始める。

カフェの壁に掛けられたレトロな時計の針は、5時15分を少し過ぎたところを指している。

「もうそろそろ行こうかな。6時からバイトなんだ。」

「なんのバイトしてんの?」

「昼も夜もキッチンで調理してるよ。その店、昼はカフェなんだけど、夜はバーになるの。」

「へぇ。朱里、料理好きだもんね。行ってみたいな。今度場所教えて。」

「うん。」

席を立ってレジに向かう。

志穂がバッグから財布を出して振り返った。

「ここは出しとく。」

「えっ?私、出すよ?」

「その代わり、今度久しぶりに朱里の手料理食べさせて。」

もしかして志穂なりに慰めてくれてるのかな?

ここは素直にその気持ちを受け取っておこう。

「そんなんでいいの?じゃあ、お言葉に甘えてご馳走になります。」


会計が済んで、店の外に出ようと通りに面したドアの方を向いた時。

信じられない光景が私の目に飛び込んできた。

見慣れたスーツ姿の横に、お腹の大きな女性の姿。

「壮介…と……紗耶香…?」

幸せそうに笑って、手を繋いで歩く壮介と紗耶香。

「どういう事…?壮介の相手…あの時会った人と違う…?」


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