季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
志穂は紗耶香から聞いていた話を、順を追って話してくれた。


紗耶香には大学時代から好きだった人がいて、ひとつ歳上のその人とは特に親しくもなく、ほんの顔見知り程度の関係だったらしい。

その人が大学を卒業してからは顔を合わせる機会がなかったが、会社に勤め始めてから、仕事で何度か訪れた取引先で、その人と再会したそうだ。

しかし皮肉な事に、前から好きだったその人が紗耶香の友達と偶然知り合い付き合い始めた。

友達の彼氏になったとわかっているけれど、どうしてもその人をあきらめられないと紗耶香は言っていたらしい。

そしてしばらくはそう言っていた紗耶香が、ある時、行動に出た。

彼の仕事が終わる時間を見計らって、仕事と見せ掛けて取引先でもある彼の勤め先を何度か訪れたのだと言う。

彼も紗耶香の事が気になっていたようで、深い仲になるのに時間はかからなかった。

それからも紗耶香は友達の目を盗んで彼と付き合っていたのだが、彼が友達と結婚する事になったから別れようと言い出したそうだ。

紗耶香はその時、既に妊娠していたのだが、確実に彼をモノにするために隠していたらしい。

一度は身を引いたと見せかけて、紗耶香は中絶が不可能な時期になってから、彼に妊娠の事実を伝えたと言う。


志穂はその話を紗耶香から聞いていた時は、その友達が私で、彼が壮介だとは思っていなかったと言った。

さっきのお店の窓から、壮介とお腹の大きな紗耶香が手を繋いで楽しそうに歩いているのを見て初めて、“紗耶香は朱里から壮介さんを奪い取ったんだ”と思ったそうだ。



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