季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
恋と喧嘩は一人でできぬ
志穂と別れてバーに向かった。

少し遅れるとマスターには連絡していたけど、バーに着いた私の顔をマスターは心配そうに見ていた。

頭の中はまだうまく整理できていない。

わかっているのは、壮介が私ではなく紗耶香を選んだと言う事と、紗耶香が私から壮介を奪ったと言う事。

そして二人が2年もの間、私を裏切り続けていたと言う事。

要約すると、それがすべてだ。

私の中には割り切れない感情が渦巻いている。

紗耶香の事が好きなら、壮介はもっと早く私と別れたら良かったのに。

そうすればこんなにイヤな気持ちにはならなかったはず。

だけど過ぎた事を悔やんでも仕方がない。

私はまた、未来に続くこの道を一緒に歩ける人を探すしかないんだ。




「朱里ちゃん、どうしたの?元気ないね。」

マスターが心配そうに声を掛けた。

「何かイヤな事でもあった?」

「イヤと言うか…すごくおめでたい話を聞いただけですよ。」

「おめでたい話?…にしては随分冴えない顔してるんだね。」

友達の悲願の結婚と妊娠はおめでたい話だ。

その相手が自分の元婚約者でなければ。

ああ、ホントにおめでたいのは2年も気付かなかった私か。

「結局世の中、手に入れた者勝ちです。残された者だけがバカを見るようにできてる。」

マスターはわけがわからないと言いたそうに首をかしげた。

「残念ながら私は後者でした。」

「でもね、因果応報って言葉もあるよ?」

もしかしたら壮介も紗耶香も、いつか同じ報いを受ける日が来るのかも知れない。

「報いを受けなきゃいけないなら、私もきっと痛い目に遭いますね。」

だって私は順平を捨てて逃げ出した。

その報いがいつか自分に訪れるとすれば、それは壮介が私を捨てた事ではなく、心から愛する人に捨てられる日が来ると覚悟しておかなければならない。







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