とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「おまえ、本当飲みすぎ。水もってくるから待ってろ。ビールは没収」
土田さんから缶ビールを取り上げた平沢さんが、キッチンへと向かう。
やっぱり、飲み会でも世話係なんだなと思いながら眺めていると、右側から急にズシリと体重がかかってきた。
そのまま横に倒れそうになったのを、床についた手で支える。
見れば、土田さんが私の肩に頭を預けたような状態だった。
アルコール臭さが鼻をつく。
〝大丈夫ですか?〟と聞こうとして、その半分も言いおわらないうちに、土田さんが言う。
「華乃ちゃんってさー、今、付き合ってる男いないでしょー」
いる、と見栄を張るつもりもないけれど、嫌な方向の話題だなと思うとすぐには答えられない。
けれど、私の答えなんて最初から待っていなかったのか。
土田さんは答えを急かすこともせずに続けた。
「人寂しいって感じの顔してるから、わかるよ」
酔っ払いのいうことだ。気にすることなんてない。
そうは思うものの、言われた内容が内容なだけに、そんな顔をしてたのだろうか……と不安になる。
だって、そんな顔してたら、平沢さんにだって気づかれたハズ――。
ドクドクと嫌な音で鳴る心臓。
私の肩に頭を乗せていた土田さんが、ゆっくりと顔をあげ、視線を合わせた。
「寂しいならさ、俺が構って埋めてあげようか? そりゃー、寂しくもなるよね。隣の部屋の平沢は彼女とこの部屋でラブラブなわけでしょー。そんなの俺だって寂しくなるしー」
笑いながら、土田さんが私の右肩をぐっと上から押し付けるようにして掴む。
もう、完全な酔っ払いのハズなのに……体重をかけられると、抜け出すことができない。
至近距離に、身体がすくんだ。
さっきまでは、ただふざけていた瞳が違う色を含んで見えて、ぞくっと嫌な感覚が背中を走った。