とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「だからさ、俺が――」
「華乃ちゃんは触られんの苦手だからって、俺、最初に言わなかったか?」
急に影が落ちたと思った矢先、平沢さんが土田さんの腕を掴み言う。
見れば、立ったままの平沢さんが土田さんを見下ろしていた。
決して、睨んでいるわけでも、声を荒げただとかそういうわけではないのに……キン、と空気が凍りついた気がした。
いつもは笑みを浮かべている顔からは表情が抜け落ち、守られた側である私でさえ戸惑うほどだった。
「なんだよ、平沢。こないだ鳥山さんの肩抱いたって怒んなかったじゃんー。こんなのただのノリだろー? どうしたの、おまえ」
少し驚いた様子で笑う土田さんも、平沢さんの様子がおかしいことに気付いているみたいだった。
見上げていると、土田さんから視線を移した平沢さんがこちらをじっと見て……それから、バツが悪そうに言う。
「いや、華乃ちゃんは本当にそういうのダメだから。悪い」
それを聞いて……ああ、本当にこの人は私のことをなにもできないコドモだと思っているんだなぁとぼんやり思った。
彼女の鳥山さんのことは、きちんとした大人の女の人だと思っているんだろう。
だから、放っておいても自分でなんとでもできるって判断している。
それが、私になると、こんな些細な悪ノリでもうまく交わせないと思われてしまっているのかと……悲しくなる。
少し前のストーカーとのやりあいを見られて、しかも助けてもらっているんだから、今更ひとりでも大丈夫だとかそんなことは言えないのかもしれない。
でも……平沢さんが守ってくれようとすればするほど、それがただの庇護の対象としてしか見られていないんだと思い知らされるようで、惨めだった。
私は、平沢さんに気を使わせることしかできないんだって思い知らされて、情けなかった。