とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「それ、本気で言ってる?」
……まさか、この一瞬で嘘だと見抜かれたわけではないと思うけれど。
そんな風に確認されて戸惑っていると、真っ直ぐな瞳に言われた。
「おまえがそんなボロボロになってんのに放っておくような男が、本当に恋人か?」
射抜くような瞳に捕まり、呆然として言葉が出てこない。
男の人の目をした平沢さんは、どこまでも私を戸惑わせ、困惑させ、苦しくさせるから、ツラさに耐えきれずに、グイッと腕を引っ張った。
もう、限界だ。
「いいからもう、放っておいてっ」
「ちょ、華乃ちゃ……」
「全部、私のわがままなんですっ。お願いだから、もう、構わないで!」
ドアから無理やりに追い出して、部屋に鍵をかける。
ガチャリとサムターンを回すと、ドアに向かい合ったままずるずるとしゃがみこんだ。
ドアがおでこにあたって、じわじわと冷たさが蔓延していく。
心臓が苦しいほどにうるさい。
平沢さんがあんな目で見てくるから。
あんなことを、言うから。
私が言っていることは、間違っていないハズだ。
彼女を大事にしろっていうことも。
自立したいっていうのも。
なのに、なんで。
『なぁ。俺、本当にもう華乃ちゃんに構っちゃダメなの?』
『俺やっぱり、前みたいに仲良くしたい』
そんなこと、あんな顔して言うの。
『おまえがそんなボロボロになってんのに放っておくような男が、本当に恋人か?』
そんなこと、聞かないで。
平沢さんの言葉が、優しさが、まるで矢のように胸を貫く。