とっくに恋だった―壁越しの片想い―
『終わりにするんじゃなくてさ、始めんの。そいつに背中押してもらって、新しい自分を。
好きなヤツに背中押してもらえたら、俺、頑張れそうな気がするもん。
で、頑張ってる中できっと他に大事なヤツとかできるんだと思う』
木崎さんの言葉が不意に頭をよぎる。
それを聞いたとき、素直にいいなって思った。
そうできたらどんなにいいだろうって。
……でも、私には無理だ。
だって、平沢さんに拒絶の言葉を向けられるのが怖い。
だったら、自分から離れたほうがいい。
あの、どこまでも情に深く優しい瞳に拒絶されたら――。
そう考えただけで、立ち上がれなくなる。
散々、一方的に平沢さんを拒絶して傷つけたくせに、自分は傷つくのが嫌なんて、本当にわがままで聞いて呆れる。
私には、平沢さんに好かれる権利も、優しくされる権利もない。
平沢さんは、生意気で可愛げのない後輩から嫌われちゃったって、鳥山さんとの笑い話にでもすればいい。
そうして、幸せになればいい。
だから……これでいいんだ。
『俺、もう華乃ちゃんに嫌われちゃった?』
だからもう、傷ついた目でそんなこと聞かないで。