とっくに恋だった―壁越しの片想い―
――『しつこくごめん。飯だけはちゃんと食べて。お願いだから』
そんなメールが届いたのは、〝ウグイス定期〟の打ち上げがあった翌日朝だった。
しつこくごめんだとか。
この期に及んでまだ私の心配をして、そのことを謝るなんて本当に世話焼きの度が過ぎる。
そんな事をしていたら、いずれ鳥山さんに愛想を尽かされるんじゃないかとも思ったけれど、さすがの平沢さんももうこれっきりだろうと思い、メールを閉じた。
あれだけひどい態度をとって傷つけたんだから。
もう、構おうともしないのが普通だ。
そう思うとキリッと胸の奥が痛んだ。
それが、先週のこと。
「野々宮、飲みすぎだって」
「うん。気持ちはわかるけど、さすがにもうやめておいた方がいいかも」
私の手からビールの入ったグラスが抜き取られる。
見れば、テーブル席の向かいで、木崎さんと樋口さんが心配そうな表情でこちらを見ていた。
「なんでですか……。まだ全然飲めるんですけど。
だいたい、木崎さんじゃないですか。私にビール飲めって言ってきたの。そうでしょ、ねぇ」
「いやいや……え、っていうかそれはナニ酒なの? すごみ酒? 目が座ってて怖い」
苦笑いを浮かべる木崎さんのとなりで、樋口さんはテーブルに並んだ料理をつつきながら言う。
「木崎、責任とりなさいよね。あんたが言い出したんだから。野々宮さんが元気ないしちゃんと食べてるかも不安だから食事に誘おうって。
私は付き合っただけなんだから、あんたの責任だからね」
「いや、だってこんなんなると思わないじゃん……。野々宮、いつも酒の席では大人しかったし……あ、ビール? ビールのせいか! なんか酔い方が違うもんな!
よっしゃ、じゃあなんか野々宮がいつも飲んでるような甘ったるい酒を……」
「もうカシスもカルーアもやめとけって言ってんのよ。この馬鹿。ちゃんぽんになって植木で寝たのもう忘れたの?」