とっくに恋だった―壁越しの片想い―
すごく女性らしい身体つきをしている樋口さんのお勧め、というのも大きい。
そんなこんなで行われた三人だけの飲み会は、ああ、確かに美容によさそう……という料理がテーブルに並んだところからスタートした。
正直、食欲が戻ったわけではない。
そんなに量が食べられるわけでもないけれど、ひとつひとつのメニューは味が上品で、どれもおいしいと思えた。
キノコやほうれん草の入った豆乳スープ、野菜たっぷりのアンのかかった揚げ出し豆腐、水菜とグレープフルーツのサラダ、大豆とササミのトマト煮。
それじゃ足りないと木崎さんが頼んでいたお豆腐ベースのお好み焼きも見るからにおいしそうだったし、お酒も種類がある。
……それなのにも関わらず、ビールを選ばされたせいで早くも酔ってしまったのが今から二十分ほど前だった。
酔って、全部を吐き出して泣いちゃえば楽になると踏んだ木崎さんの作戦だったらしいけれど……それが、成功したのかどうかはわからない。
木崎さんの作戦どおり、ふたりに聞かれるがまま平沢さんのことは話した。
作戦と違ったのは、私が話しながら泣き出さなかったところかららしい。
いつもは飲まないビールのせいで、いつも以上にふてぶてしくなった性格には自分自身気付いていたけれど、どうにもできなかった。
ストッパーが外れたみたいにペラペラと口が回る。
「なんですか、私泣かなきゃダメだったんですか。知りませんよ、そんなの。木崎さんが勝手に決め込んでただけでしょ。私がか弱いヤツだって。
言っておきますけど、こないだ泣いたのだって本当にたまたまですし。全然、へこんだりしてないですし元気ですしぴんぴんです」
「……ねぇ、樋口。あれって焼酎じゃないよね?」
「これは水です」
手に持ったグラスの中の水を振り、ちゃぽちゃぽしながら答える。