とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「そもそも、聞いてもらったところでどうしょうもないことなんですよ。
平沢さんに恋人がいて、私のことは後輩としか思っていない、それがわかっている以上、どうにもならないし、どうするつもりもありません」
話を元に戻した私を、ふたりが見つめる。
本来こうして心配されるのは、性に合わない。
気にかけられてるって時点で落ち着かないし、できたら放っておいてほしいというのが本音だ。
同情されるのだって絶対に嫌だ。
それでも……こうして話したのは、アルコールのせいだけじゃなく、なんだかんだ言いつつもふたりを信頼しているからなんだろうと、ぼやけた頭で思った。
どんどんと口をつく言葉は、100%アルコールのせいだろうけれど。
「どうにもならないなら、逃げたいんです……。今までお世話になったぶん、せめて平沢さんの幸せの邪魔をしたくないとか、そんな綺麗ごとじゃなくて……平沢さんのためなんかじゃなくて……」
そこで言葉を一度切ってから、続けた。
「私が、もうツラいから……。後輩なんて立場じゃ我慢できないから」
多分、このへんのことをシラフのときに説明したら〝もういいんです。もろもろあって諦めることにしたので〟で、終わることだ。
ただ今はストッパーが外れているせいで、話さなくていいような胸の内がポロポロとこぼれてしまう。
心の奥、柔らかい部分にしまってあったものまですべて。
「あの人……ズルいんですよ。だって、考えてみれば、好きになる要素しかつまってないんですもん。
優しくて、世話焼きでお人よしで、料理だってうまくて、いつも帰るとドアにメモが貼ってあって、食べにおいでって……」
「そう」と相槌を打つ樋口さんの声色があまりに優しくて、じんわり、瞳に膜が張る。