とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「私が、なにげなく話した仕事の内容とか覚えてて、今日は例のアレちゃんとできたかとか、そういうの、聞いてくれて……梨元社長に言われたことも、よく我慢したなって、頭、撫でてくれて……」
「おう」
今度は木崎さんが返してくれた相槌も、どこまでも優しい。
「いちいち、気にしてくれて、褒めてくれるんです……。私が溜め込む前に。
私が、仕事始めてストレスを翌日に持ち越さなかったのとか、全部、平沢さんがちゃんと受け止めてくれてたからで……全部、平沢さんのおかげなんです……。
私ひとりじゃ、全然……全然、ダメだった……っ」
平沢さんと会わなくなった途端、穏やかに全部が崩れ始めた。
私の生活の、なにもかもが。
ストレスどころじゃない。
食べることや寝ること、そういう生活の主軸の部分でさえ、あっという間に崩れていった。
「あの人がいてくれないと……嫌なのに……一緒にいると、苦しい……」
「……そう」
「平沢さんに……好きになってほしかった……っ」
ぽろっとこぼれた言葉に、自分でも驚く。
本当に望んでいたことはそれだったのかと……気付いて、涙がこぼれた。
鳥山さんと同じ位置に立てなくていいって思ったくせに……本心では、望んでたんじゃない、と今さら気付いて、くしゃっと目元が歪む。
「好きになってほしかった……私のこと……好きに……」
いつも張っている意地なんて、涙と一緒に落ちてしまったように、心の中の声がポロポロ落ちる。
座ったまま俯いて涙を流す私の頭に、木崎さんがポンと手を乗せ、わしゃわしゃと混ぜるように撫でる。
「うん。そうだな。好きになってほしかったよな」
私を肯定してくれる、優しい声。
微笑んでくれているのは、見なくてもわかった。