とっくに恋だった―壁越しの片想い―
平沢さんは世話焼きだけど、離れて行こうとする人を引き留めるようなこと、するだろうか。
離れようとすることに、なにかワケありの理由があったりだとか、そういうのなら話は別だけど……私が言った嘘の理由は、自立したいから、だ。
それは、私にとっては悪いことじゃない。
平沢さんだってそう思っているだろうし、だったらわざわざ引き留めたりはしない人だ。
確かに世話焼きだけど、それは相手の迷惑にならない範囲で甘やかしているだけで、きちんと状況を把握できる人だから。
今まで散々、ご飯作ったりだとかそういうことをしてくれていたのは、私の食生活を心配してっていうのもあるだろうけれど、私がそれを不快に思わず甘えていたのを、平沢さんも知っていたからだ。
でも、平沢さんは、少しでも私が迷惑だと思ってると感じたら、すっと引くと思う。
なのに、なんで……。
「もしかして……私の気持ちがバレてるとか、そういう……」
「だったら尚更、仲良くしたいなんて言いにこないと思うわよ。デリカシーがない人じゃないんでしょ?」
すぐさま否定されて、頷く。
……そうだ。平沢さんは、私の気持ちを知ったらきっと、自分から近づいたりはしない。
気持ちに応えられないのに近づいたら、傷つけるだけだってわかってるから。
優しい人だし、と考えたら、ますます仲良くしたがる理由がわからなくなる。
「じゃあ……なんで……」
「不思議よね。野々宮さんのこと、本当の妹みたいに思ってて、シスコンだとかそういうことなのかしら」
「ああ……そうかもしれないですね」
樋口さんに言われ、ああそうかと思った。
私のことを大事は大事に思ってくれてるのかもしれない。
――恋人、というカテゴリーには決して入らない部分で。
それは嬉しくもあり……でも、素直に喜んでばかりいられることではなかった。
違う部分で大事にされているからこそ、恋人という存在からは切り離されてしまっていて……どこまでも遠い。