とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「なんか……本当に、そんな風に大事に思われてるなら素敵なことだけど……切ないわね」
私が考えたことと同じことを考えたんだろう。
樋口さんが言う。
いつもはうるさいくらいの木崎さんも、ただ黙っていて、お得意のエスパー能力でも使ったのかなと思う。
きっと、今励ましたところで、どうにもならないってことは木崎さんにも伝わったのかもしれない。
そんな木崎さんを横目で見た樋口さんが「覇気のないゴリラみたいな顔してる」と言うと、木崎さんはしょんぼりした顔で大きなため息を落とした。
「こんなときにウホウホ言って騒げない」
「そんなこと期待してるわけじゃないわよ。ただ、いつも元気なヤツがへこむとうっとうしいからやめてって言ってるだけ。
だいたい、今、落ち込むのは野々宮さんでしょう。それをあんたが落ち込んでどうするのよ」
じろっとした目でお説教された木崎さんは、ハッとした顔をして私を見ると。
「そうだった! 俺が落ち込んでたら野々宮、思う存分へこめないもんなっ。もう大丈夫だ。へこめ! なんなら貸すしっ」
胸をドン、と叩きながらそう言い出した。
そういえば、今更だけどこのふたりは同期だったっけ、どうりで、と、頭の隅で思い出しながら「大丈夫です」と首を振った。
「まぁ、そうか。俺の胸じゃなぁ……あ、じゃあ樋口の胸借りれば? すげーぞ、樋口のは。まさに驚きの弾力! 70Eなら野々宮も満足……ふぐぅっ!」
「このゴリラ……本当に信じられない」
「70E……」
横っ腹に思いきり肘打ちを入れられた木崎さんが、おかしな奇声をあげ痛がるのを視界の端で捉えながら、どうりで大きいはずだと樋口さんの胸をまじまじ見てしまう。
たぷんとした胸は見るからに柔らかそうで、うっとりとしながらため息を落としていると、樋口さんが言う。